落下事故と自賠責保険の認定
1 落下物による交通事故
荷台に建材や廃棄物を積んで走行しているトラックを見かけることは、珍しいことではありません。
基本的にはきちんと固定されていますが、固定が不十分であったり、許容以上の分量を積載したりすることが皆無とまでは言えません。
このような積載物は相応な重量を持っていることから、落ちて人や車にぶつかるようなことがあれば、重大事故となることは容易に想像できます。
ここでは、自動車から落下した物との接触によって死傷者が出た場合に、積んでいた自動車の自賠責保険を使用できるかについて、検討します。
2 「運行」の意義
自賠責保険を使用するには、自動車損害賠償保障法上の責任が認められなければなりません。
そして、自動車損害賠償保障法3条は、「・・・、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、・・・」と定めており、一般に運行供用者責任と呼称されます。
では、前述のような落下事故が、「運行」によって生じたといえるでしょうか。
「運行」の意義は、同法2条2項において、「人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう」と書かれています。
この「当該装置」の意味については、最判昭和52年11月24日(民集31・6.918)等において、自動車をエンジンその他の走行装置により位置の移動を伴う走行状態におく場合だけでなく、走行停止中でも、固有装置(例:クレーン車のクレーン、ミキサー車のミキサー)をその目的に従って操作する場合も含むと解されています。
3 事例検討
走行中に積載物の固定が緩むなどして落下し、死傷者が出たような場合は、走行によって固定が緩んだり、落下物が加速したりする関連性が容易に推認できるため、「運行」によって生じたと解することに争いはないでしょう。
肯定事例の1つとしてあげられるのが、フォークリフトのフォークを使って荷台上の原木を突き落とした際に、通りがかりの子どもが下敷きになって死亡したという事故です。
最判昭和63年6月16日(判タ685-151)は、本件の死亡は(フォークリフトの)「運行」によって発生したものと述べました。
反対に、否定事例の1つとしてあげられるのが、最判昭和56年11月13日(判タ457-82)で、普通貨物自動車に積載していた古電柱の荷卸し作業中、そのうちの1本が突然落下し、下敷きとなった作業員が死亡したという事故です。
否定の具体的理由としては、古電柱が積んであった荷台が仮に「当該装置」に当たるとしても、操作ということは考えられず、実際に荷台の側板等が操作された形跡もないことがあげられています。
4 当法人にご相談ください
自賠責保険が使用できなくても、民法上の不法行為責任などを主張することは可能です。
もっとも、前記運行供用者責任は、不法行為責任に比べて、立証等の面で被害者が有利に扱われているため、運行供用者責任が否定されることは被害者にとって相当不利な事情となることは否めません。
お悩みの場合は、交通事故に高い専門性を有する法律事務所に相談することをおすすめします。
当法人は交通事故を得意とする弁護士がおりますので、安心してご相談ください。