交通事故における企業損害
1 企業損害とは
AさんがBさんの自動車にぶつけられて怪我をした場合、AさんがBさんに損害賠償請求できるのは、言うまでもありません。
では、Aさんが代表を務めるC社が、Aさんが働けなくなったことによって、C社に生じた損害をBさんに請求することは可能でしょうか。
これが企業損害の問題です。
2 判断要素と裁判例の動向
判例は、次の要素がもとに判断していると考えられています。
- A) 代表者に実権が集中されていたか(実権集中)
- B) 代表者の替えがきかないか(非代替性)
- C) 代表者と会社は経済的に一体といえるか(経済的一体性)
さらに、これらA~Cを判断するにあたり、代表者の業務内容・実権の所在、企業規模、代表者の出資割合・持ち株比率、会社財産と代表者財産の混同の有無などが考慮されていると解されています。
会社役員や従業員の死傷については、会社にとって重要な存在で、替えがきかなくても、前記A・Cの要素が認められないため、企業損害の請求は基本的に認められない傾向にあります。
大阪地判平成24年1月27日は企業損害を肯定した事例ですが、その理由として、①会社は代表者である被害者とその配偶者の2名で運営されていたこと、②被害者が発行済株式の9分の8を保有していたこと、③被害者に代わって仕事ができる者は会社におらず、経済的一体性があることがあげられています。
大阪地判平成25年6月11日は企業損害を否定した事例ですが、その理由として、①会社には被害者(管理薬剤師)のほか、パートタイマーながらも複数の薬剤師がおり、勤務実態において被害者と他の薬剤師との相違はあまりなかったこと、②被害者がいた本店には代替薬剤師の確保によって営業が継続でき、別店舗の営業には直接の影響が生じなかったこと等から、被害者についてまったく代替不能とまではいえないこと等があげられています。
3 弁護士への相談をおすすめします
企業損害が認定されるハードルはかなり高く、見通しや可否の判断には専門的知見が必要であるといえます。
そのため、企業損害の請求を検討されている方は、交通事故に長けた弁護士に相談の上、対応を検討されることをおすすめします。