無職者の休業損害
1 無職の方は休業損害を得られないのか
有職者が休業損害を請求する場合、一般的には、勤務先に休業損害証明書を作成してもらい、源泉徴収票や所得証明書等の裏付け資料とセットで認定を得ます。
他方、無職者は、勤務先がないため、休業損害証明書を作成してもらうことはできません。
では、無職者が休業損害を得ることは叶わないのでしょうか。
2 認定事例
⑴ 認定されるケースもある
無職者であっても、休業損害が認定されることはあります。
その要件は、①労働能力及び労働意欲があり、②就労の蓋然性があることとされています。
以下では、実際の裁判例を見ながら検討します。
⑵ 札幌地判平成13年11月29日
本件の被害者は、約2年前に40年以上続けてきた大工の仕事をやめ、事故に至るまで大工としては働いていませんでした。
もっとも、事故の約4か月前から、再び大工として働こうと考え、職業相談所に出向いたり、求人広告を見て問合せをしたり、知人に仕事のあっせんを頼んでいたりしました。
このような事情から、大工としての①労働能力及び労働意欲があり、働き先が見つかって②就労できた蓋然性があるとされ、休業損害が認定されました。
休業損害の具体的金額は、大工として働いていた際に480~600万円の年収を得ていたことが考慮され、賃金センサス年齢別平均賃金の8割相当額を基礎収入とし、症状固定日までの323日を乗じて、328万9113円とされました。
⑶ 名古屋地判平成18年3月17日
本件の被害者は、約1年半前に運送業を廃業し、失業中でした。
もっとも、健康面に問題はなく、事故前年から求職をしており、2、3件の(就業に関する)具体的な話が進んだことがありました。
このような事情から、運転手としての①労働能力及び労働意欲があり、事故から約3か月後には②就労できた蓋然性があるとされ、休業損害が認定されました。
休業損害の具体的金額は、賃金センサス年齢別平均賃金の7割相当額を基礎収入として、事故後3か月目から症状固定までの570日を乗じて、493万2210円とされました。
3 保険会社(共済含む)の傾向
無職者の休業損害は、基本的に認定しない傾向が強いように思われます。
また、労働能力や労働意欲はともかく、就労の蓋然性に関しては、主観を交えやすいこともあって、厳しく評価される可能性があります。
仮に認定されたとしても、期間は相当区切られるでしょう。
そのため、無職者としての休業損害を請求したい場合は、被害者個人で抱え込むのではなく、弁護士に相談の上で、対応を検討すべきと思われます。
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