預貯金情報の開示請求
1 預貯金債権差押え手続きと問題点
自動車保険(共済含む)は、自賠責保険と異なり、強制加入ではなく、未加入でも罰せられることはありません。
それもあってか、自動車保険に加入していない車両、いわゆる無保険車両は一定数存在します。
そのような無保険車両にぶつけられた交通事故において、加害者が賠償に応じないことがしばしばあります。
話し合いでの賠償に応じない場合の強制解決手段として、訴訟及び判決といった制度が設けられているのですが、提訴して勝訴判決が確定しても、開き直ってまだ賠償に応じないということがあります。
勝訴の確定判決がある以上、強制執行手続をとればいい、具体的には預貯金債権を差し押さえればいいと思われるかもしれません。
しかし、差押えをする預貯金債権は、被害者側で調査・特定する必要があり、国・公的機関が自動的に探し出してくれるようなことはありません。
また、金融機関に加害者の口座の有無を尋ねても、個人情報保護を理由にして、教えてくれないのが通常です。
このような預貯金債権差押えにおける問題点については、以前より指摘されていました。
2 預貯金情報の開示請求
民事執行法の法改正(令和元年5月10日成立、令和2年4月1日施行)によって、預貯金債権差押えの一助となる制度が設けられました。
それが、こちらのページのタイトルにもしている預貯金情報の開示請求であり、債権者(例えば、前述の勝訴の確定判決を得た被害者)が金融機関に対して、債務者(例えば、前述の敗訴が確定した加害者)の預貯金口座の有無や残高等の情報の提供を受けることができるというものです。
要件については、民事執行法197条1項1号・2号に規定され、主に用いられるであろう2号の文言は、「知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が完全な弁済を得られないことの疎明があったとき」です。
具体的には、債権者側が、債務者の財産・債権の調査を行い、強制執行の対象となるものが見当たらない、換価価値の乏しいものしかないことを報告書や資料をもって明らかにすることが求められます。
「疎明」ですので、一応確からしい程度で足ります。
要件が満たされていると、裁判所から、金融機関に対して、債務者の預貯金情報を開示するよう命令書が送られます。
金融機関は、原則として命令到着後2週間以内に書面で回答する必要があります。
回答書面は、最終的に債権者に送付され、債務者の口座があるか、ある場合は残高がいくらかを知ることができ、預貯金債権差押えに役立てることができます。
情報開示がなされたことは、最終的には債務者にも通知されますが、債権者への回答より遅らせる運用になっています。
差押え前に債務者が預貯金を引き出して、執行逃れ等を行うのを防止するためです。