自営業者が債務整理する際の注意点
1 自営業者の債務整理
個人の方が借金に対して債務整理を行う場合、債務者の方は会社員やアルバイトなどの被雇用者で、債権者は金融業者というケースがほとんどです。
これらの方の場合、自己破産で職業制限が問題になる場合を除き、通常は債務整理を行うことで仕事に影響が出ることはありません。
しかし、自営業者、すなわち会社組織ではない形で事業を行っている方の場合、債務整理を行うことによって事業に影響が出る場合があります。
ここでは、自営業者の方が債務整理を行う場合の注意点についてご説明します。
2 自己破産の場合
事業が上手くいかずに自己破産に至った場合、破産に伴い個人事業を廃業することが多いです。
しかし、建築請負(一人親方)や配送の請負などを個人事業として行っている場合は、個人事業を失敗したから自己破産を行うというよりも生活費の不足や浪費によってカードローン等の多額の負債があり自己破産を行うというケースもあります。
そのような場合は、破産しても個人事業は継続したいという方がほとんどかと思います。
以下では、自己破産後も個人事業を継続する場合の注意点についてご説明します。
⑴ 事業に必要な資産を確保できるかどうか
民事執行法131条6号は、差押が禁止される財産として「技術者、職人、労務者その他の主として自己の知的又は肉体的な労働により職業又は営業に従事する者(前二号に規定する者を除く。)のその業務に欠くことができない器具その他の物(商品を除く。)」を規定しています。
法律で差押えが禁止されている財産は破産手続でも換価されることはありませんので、これに当てはまるものは破産手続を行ったとしても保持できることになります。
過去の裁判例では、債務者が内科医の場合にレントゲン撮影機がこれにあたるとされたことがあります。
しかし、この差押え禁止財産にあたらない財産は、例えば自動車の場合、自動車ローンの会社に所有権が留保されている場合は換価処分のため自動車ローン会社に引き揚げられることなるのが通常であり、そうでない場合でも、初度登録から数年程度しか経過していない場合は、破産管財人により換価処分されることになります。
ただし、換価の対象となる財産でも、自由財産として認められれば、破産者が保持することができます。
自由財産は、通常、すべての財産を合わせて99万円まで認められます。
⑵ 取引先の信用確保
個人事業で業務に必要な材料等を掛け(後払い)で購入している場合、支払未了の代金は破産債権となりますので、売主を破産債権者として債権者一覧表に記載しなければなりません。
こうなると、材料の販売業者の信用を失うことになり、取引を打ち切られるのが通常ですので、事業を継続するためには、購入時に代金を支払う取引に切り替えるなどの対応が必要です。
なお、債権者一覧表に載せることを避けるために、この債権者のみ支払期日より前に弁済してしまった場合、免責不許可事由としての偏頗弁済に該当することになります。
⑶ 事業資金の確保
破産手続では、通常であれば、合計99万円以内の財産については自由財産として認められますが、それを超える財産は破産財団に組み込まれ、配当等に充てられることになります。
例えば、破産開始決定時において現金・預貯金が80万円、未回収の売掛金が70万円ある場合、そのうち99万円は自由財産として保持できたとしても、51万円は破産財団に組み込まれることになります。
建築請負等で、報酬を受領する前に請負人において材料等を購入しなければならない種類の事業の場合、自由財産として確保できた財産で材料等を購入できなければ、同種の事業を継続することは難しくなるおそれがあります。
3 個人再生の場合
⑴ 破産との違い
個人再生の場合、再生債務者の財産が換価処分されることはありませんので、事業用の資産も換価処分されることはありません。
ただし、所有権留保が付されている自動車については、原則として自動車ローンの会社に引き揚げられることになります。
個人再生では再生債務者の財産は換価処分されませんが、清算価値の算定の際に考慮されます。
例えば、清算価値として考慮されない財産(99万円までの現金等)を控除しても500万円の財産(清算価値)がある場合、再生債権(負債)の総額が550万円だったとしても、500万円を返済しなければなりません(清算価値が110万円以下の場合、返済金額の最低額は110万円になります)。
なお、以上は小規模個人再生を前提としたご説明となります。
⑵ 収入の安定性
個人再生では、再生債務者にある程度安定した収入があることが前提となります。
そのため、収入に大きな波があるような場合は注意が必要です。
また、個人事業者の場合、確定申告をしていない方もいらっしゃいますが、その場合、裁判所や個人再生委員に対して収入を証明することが困難になりますので、個人再生手続きの利用は難しくなります。
4 任意整理の場合
任意整理の場合、整理の対象とする負債を選択することができますので、基本的には自己破産や個人再生で生じるような問題は発生しません。
例えば、所有権留保付きの自動車があり、事業に自動車が必要な場合には、自動車ローンは任意整理の対象から除外し、それ以外の無担保ローン、クレジットのみ整理することが可能です。
もちろん、事業に支障のない負債のみ任意整理を行っても月々の返済が厳しい場合は、自己破産や個人再生を検討する必要があります。
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